第一話「ロント、ミッドガルドへ飛び入り」 | 徒然らぐなろく

第一話「ロント、ミッドガルドへ飛び入り」

「まずい、こいつは俺たちじゃ勝てない!」

と、仲間の騎士が叫ぶ。

「・・・・このままではジリ貧です」

そう、後ろで戦っていた軽戦士も呟く。

「逃げるぞロント!テレポートで俺たちを飛ばすんだ!」

冷静に状況を分析する盗賊が、私に指示を飛ばしたのを聞いて、呪文の詠唱を始めた。

詠唱は成功し、私たちはいつもの町へと戻るはずだった。



「・・・・さて、なんで私はこんなところにいるのか、教えてくれないか?」

そんな問いには耳も貸さず、目の前の衛兵はただ、底抜けに明るい声でこう言った。

「ようこそ!ミッドガルドの世界へ!」

「質問に答えろー!」




一時間ほどして状況を整理した結果、次のようなことが分かった。

1.ここは元いた世界ではない、いわゆる別世界というところである。

2.仲間がいないところを見ると、ここへ来たのは私だけらしい(衛兵曰く、この世界を最初に訪れる者は皆ここへくるとのこと)

3.装備もなく、また魔法も一切使えない。

4.元の世界に戻るのは絶望的。


「つまり・・・ここで暮らしていくしかないと」

衛兵は建物の中に案内してくれたが、そこから先はまた別の者に案内された。

悩んでいても仕方が無いので、この世界でも魔法使いとして生きていくしかないだろう。

生憎元の世界での魔法は使えないが、この世界にも「魔術師ギルド」なるものは存在するらしい。

そこで修行を積めば、元の世界に戻れるかもしれない・・・・薄い望みではあるが。


「では、希望の職業でよろしいですね?」

「はい、マジシャンでお願いします」

そう検査員に答えると、次の瞬間には別の街に飛ばされていた。

「これほどまでに空間転移技術が発達しているならば、案外薄い望みでもなさそうですな・・・」


街の名前はゲフェンと言った。左右対称な整然とした街並みの中心に、一際目立つ塔がギルドらしい。

「・・・とりあえず、この世界での魔法使いを目指さなくては」


そう私は呟いて、塔の中へと入っていった。