第三話裏「シーフになるまで」
物心ついた時から、俺はモロクの孤児院にいた。
優しい院長さんと、貧しいけれど楽しい暮らし。手先は器用な方だったから、道具を直して少しでも院長さんの助けになろうと思った。
親はいたのだろうけど、今に不満がないから気にすることはない。そんな暮らし。
そして今日もここから卒業生がでる。
年上の人達は一人立ちすると共に、孤児院から出て行くのだ。
たまに院長さんに「卒業していった人はどうしてるかな?」と聞いたけど
「便りがないのはいい証拠よ、きっと皆元気でやっているわ」
そう答えてくれたから、俺はそれを信じていた。
・・・つい、昨日までは。
箒を直したから、院長さんへ報告をしようと部屋へ行った。いつもならこの時間は部屋にいるはずだ。
でも、珍しく院長さんはいなかったから俺は部屋に1人だった。
「・・・チャンス」
普段見てないところを片っ端から漁る。きっとおいしいお菓子とかが隠れてるだろうから、こっそり持ち出して皆に分けてやろう。そんな考えで机を調べていたら、卒業していった人の名前が書かれた紙が見つかった。
「おーこれは卒業していった人の名簿だ。先輩たち元気にしてるかなぁ・・・・・・へ?」
卒業していった人達の後ろにはなぜか年が書かれてあった。
「17、16、18、16・・・・・なんだこれ」
一番上には題名と項目が書かれてある。そこを見た瞬間、俺は紙を元に戻して部屋を出ていった。
途中大部屋を見ると年下の皆が遊んでいた。1人が俺に気付いて手を振ってくれる。
「フェルス兄ちゃん、遊ぼうよ~」
「ごめんな、ちょっと院長さんからお使い頼まれたから戻ってきてから遊んでやるよ」
「む、鬼ごっこで勝ち逃げとはひきょうなり」
・・・・そんな無邪気に笑うのを見て、俺は逃げるように院を飛び出した。
「おかしいなぁ、いつもなら笑ってくれるのに~・・・」
そんな声も聞こえない。
部屋に院長さんが居れば、こんな事実も知らずに済んだ。
でももう遅い。
・・・・・項目は2つ。「死亡年齢」と「奴隷一覧」だった。
「今、一番年上なのは俺。もうすぐ俺は奴隷にされる・・・いやだ!」
・・・逃げないと捕まる。
ここは砂漠の街、街の外は延々と続く砂地。
・・・・どうやって逃げる?。
旅の準備があって、ようやく街の外を歩ける。
・・・・・旅の準備なんかない。金もない。
食べ物と水さえあれば。
・・・・・・時間がない、時間がない、逃げないと。
そう考えて、とにかく店先から物をつかんで逃げた。
「こそ泥だ!」
「止まれこのガキ!」
言われて止まるわけはない。捕まったら孤児院に戻される。
・・・戻されたらどうなるかはわかる。
でも街の外まで逃げる前に、木の下で囲まれてしまった。
木の下には寝てるマジシャンが1人。
「ダメか。孤児院に戻されたら明日にでも売られるな俺。こんなのんびり寝てる奴には、縁のない世界だろうな・・・」
そんなどうでもいいことを思っていたら、衛兵の1人が変なことを言い出した。
「子供を使って盗みをさせるとは・・・このモロクの街でいい度胸だ!」
驚いてマジシャンの顔を見下ろしたら、ちょうど目を開けたそいつが起きるところだった。